麻布競馬場さん待望の新刊

麻布競馬場さんの新刊が出た。
デビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を読んで、
僕は一気に彼のファンになった。
人の奥底にあるドロドロとした感情に触れられるあの読書体験を
もう一度味わえる。嬉しい。

新刊のタイトルは『令和元年の人生ゲーム』。
Z世代の若者たちが、大学を卒業し社会に出ていく姿を描いた短編小説だ。
サブタイトルは、「この勝ち確人生がいつまでも続きますように！」。

物語は4編から成り、それぞれに異なる主人公が登場する。
だが、全作に共通して登場するある男性がいる。
彼はかつて“優秀”とされた人物。
しかしその評価は、いつまでも続かなかった。

彼は常に脇役でありながら、物語の本質を表現する存在。
この構成はなかなか秀逸だと思った。

ただ、何かが物足りない。
面白くはあるのだけれど、
以前感じたようなワクワク感が湧いてこないのだ。

麻布競馬場さんは、会社員をしながら覆面作家として
Twitterやnoteで作品を発表していた。
それらをまとめたのが一作目の『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』。

そして今回が待望の第二作。
力が入るのも当然だ。
特に前作の評価が高かったなら、なおさら。

だからなのだろう、作風に変化があった。
どこか荒々しさが薄れていて、代わりにレトリックや技巧が目につく。
プロとして“ちゃんと”書こうとしているのが、透けて見えるような感じがした。

誰かが言っていた。
「上手くなってはいけない」

上手くなろうとすればするほど、個性は削がれていく。
上手さは毒を薄めてしまう。
個性とは、ある意味“毒”であり“麻薬”だ。
それがなくなったら、作品はただ綺麗な読み物になってしまう。

成長と上達は、似ているようで違う。
成長は未知の自分に出会うことであって、
上手くなることではない。

ふと、ある商品のコピーが浮かんだ。

「丸くなるな、星になれ」
サッポロ黒ラベル

ロゴマークをもじったコピーだが、
きっと同じことを言いたいんだろうな。

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今のメジャーリーグの選手たちは、
すべてがデータで管理されていて、
フォームもスイングも“正解”に寄っていくそうです。
その結果、みんなが同じような選手になる。
失敗の確率は減るかもしれないけど、見ている側からするとつまらない。
昔のように、変なフォームで、変なスイングの選手が大活躍する
そんな“ズレ”とか“毒”みたいなものがあるからこそ、面白いのにね。
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